2020日弁連会長選挙 公開質問状と回答

はじめに
 2020年2月7日投票日の「日弁連会長選挙」には、5候補が立候補されています。

 その選挙公報については、 こちら(日弁連HP)をご覧下さい(2月7日午後4時まで閲覧可能)。

 ただ、選挙期間がスタートし、乱戦と聞いていますが、いち弁護士会の会員である藤本の印象としては、政策が総花的で、それぞれの会長候補者の先生の誰が当選した際に、日本の法曹界にどのような変化が生じ得るのか、今ひとつ分かりづらいように感じました。

 そこで、私が個人的に日弁連の将来に影響する重要なテーマであると考える「将来の法曹養成制度」について、仲間を募って、公開質問状を出させて頂きました。出したのは、2020年1月20日です。あまり期間もない中で、全ての候補者の先生から回答を頂戴しました。

 回答を頂いた先生方には、選挙戦の最中、短時間で質問に応じた回答をご用意くださり、感謝申し上げます。

 以下、質問状と回答全文を紹介した上で、個別の質問に対する回答の比較を行っております。

(なお、私個人の見解は、別に記載することにします。なお、私個人の見解は、一緒に公開質問状をお願いした他の弁護士との共通見解ではありません。この点御留意ください。)

公開質問状について
 実際に各候補者に送付した公開質問状は、こちらです。全5候補に、郵便、電子メール及びファックで送付しております。

 以下、テキストで書き出しています(冒頭と末尾部分省略・・・上記リンクで確認してください。)

(1)司法試験合格者数について

 既に先生方の政策にも具体的に数が記載されていますが、同じ基準で議論がされていないように思いますので、お伺いします。

 会長に当選された後から当面5年程度(2020〜2024年)の間の司法試験合格者数について、日弁連会長として、端的に何名程度とするように働きかけを行われる予定でしょうか。可能な限り、具体的で幅のない数字でご回答頂けますと幸いです(なお、当面5年間の間で合格者数を変化させるべきとお考えの場合は、具体的にいつからどのように変化させるべきか、可能な限り、具体的で幅のない数字でご回答頂けますと幸いです。)。なお、その理由があれば、併せてお答えをお願いします。 なお、司法試験合格者数は、1999年頃から1000名程度となり、その後、2004年から1500名近くに増加、2006年の新司法試験導入後は、新旧あわせると2000名を超過した時期(2007〜2013年)がありましたが、2014年には1800名程度に低下し、2016年以降は1500名程度になっています(2018年は、1525人、2019年は、1502名)。

(2)法曹養成制度について

 現在の司法試験は、法科大学院を卒業するか、又は予備試験に合格した場合に受験することができます。

 昨年、この制度を維持しつつも、法学部―法科大学院の一体教育により、法学部を3年で卒業できるコースの新設や、法科大学院在学中に司法試験を受験できるような制度変更が法改正を伴う形で実現しました(施行は2020年4月)。

 この結果、予備試験を経由しなくても、司法試験受験までに要する時間を、現在の一般的な形である6年強(学部4年+法科大学院既修者コース2年修了)から、4年強(法学部3年+法科大学院既習コース2年在学中)と短縮することができるようにはなりました。

 しかし、予備試験制度そのものについては、受験制限が設けられた訳ではなく、従来通り、法学部や法科大学院に在籍する者が受験することができます。

 また、今回の制度変更は、法学部と法科大学院の連携を主眼としています。もともと法科大学院は、「社会生活上の医師」である法曹に幅広い分野から人材が集まるように設置された筈でした。理系や文系他学部、社会人等から法科大学院に進学する者が、今まで以上に少なくなるのではないかという懸念があります。

 更に、今回の制度変更により、法科大学院在学中の受験が認められた結果として、法科大学院教育の中身が形骸化する心配もあります。

 そこで、会長に当選された後から当面5年程度(2020〜2024年)の間の法曹養成制度(法科大学院、予備試験、司法試験、司法修習)について、日弁連会長として、(司法試験合格者数を除き)何か変更するために働きかけを行われる予定でしょうか。可能な限り、具体的な改正案をご回答頂けますと幸いです。なお、その理由(問題意識等)があれば、併せてお答えをお願いします。

(3)法曹の将来像を開かれた明るいものにするために

 私たちは、弁護士業界が司法試験制度の改革の後退により、狭く閉ざされたものになる可能性を危惧しています。世界的に見れば、各国で法曹人口は増大を辿っており、法曹の需要は拡大し、競争は激化するものの、結果として弁護士に支払う単価も高くなる傾向が強く存在しています。しかし、少なくとも我が国の弁護士報酬の単価は、上昇の気配があまりないように感じます。もはや、欧米と比較はできないのはもとより、中国や韓国と比較しても、我が国の弁護士の報酬単価(時間あたり、事件あたりの報酬)は安いように感じます。

 業務拡大が叫ばれて久しいものの、考えてみると、法テラスや国選など、単価の安い業務が増え、弁護士の労働生産性は低下しているようにも感じられます。業務の国際化は、顧客サイドで見ると、「外国の弁護士に高く払うのは仕方がない」ものの、国内弁護士に対する報酬増には余りつながっていないようにも感じます。弁護士会務の増加も、「ただ働き」を増やし、結果的に会務に関心のない若手会員を増やし、会全体の肥大化を加速させている傾向があるようにも感じます。我が国の弁護士会費(日弁連+単位会)は、所属単位会にもよりますが、我が国よりGDPが上であるカリフォルニア州やニューヨーク州、中華人民共和国の単位会と比較しても10倍以上の高額なものとなっています。 法曹の将来像を開かれた、明るいものとするための施策は、様々なものがあると思います。しかし、会長の任期は2年と限られており、先生方が色々と提唱される政策のどれが本気なのか、どれが重点なのか、良く分かりません。

 法曹の将来像を開かれたもので、かつ、明るいものとするために、先生方が提唱する政策(公約に記載のないものでも構いません)のうち、任期2年の中で具体的取り組みが可能なもので、特に重要な2つ(先生が会長となられた場合、重点的に取り組むものということでお願いします。)に絞って、ご紹介頂けないでしょうか。

各候補者の回答全文
 まずは、各候補者の回答全文のリンクを貼っておきます。

 及川智志先生(なお、原文は、電子メールに添付したwordで頂戴していますが、PDFに変換させて貰っています。)

 山岸良太先生

 荒中先生

 川上明彦先生

 武内更一先生

 いずれもA4にして2〜3頁程度の短文ですので、一度ご覧いただけますと幸いです。良く分かります。

 以下では、質問別に、各候補の回答をピックアップして比較します。

(1)司法試験合格者数について
 質問に対して、具体的に数字で回答をして頂いたのは、武内候補、及川候補と川上候補です。

 まず武内候補は、司法試験合格者数につき「弁護士総数を減員するため、当面5年間、緊急措置として、年各300人以下」との回答でした。

 及川候補は、「選挙公約としては、1000人以下を掲げ」た上で「弁護士人数を増やすべき状況ではない」ことから「論理的には500人」に「組織内弁護士を考慮」して「700〜800人とするよう働きかけるべき」との回答でした。

 川上候補は、「2021年度からの司法試験合格者数は、当面5年程度の間、年間1000名」との回答でした。

 山岸候補及び荒中候補からは、2012年及び2016年の日弁連決議(※まず年間1500名まで減員)を踏まえるとした上で、具体的な数を明示しては頂けませんでした。

 山岸候補からは、「現時点で具体的な人数を示すことは適切ではない」「法曹養成制度の改革や現実の法的需要の状況等を検証した上で、提案すべきもの」「検証に際しては、日本の総人口が今後急速な減少に転じることも考慮しなければならないと考えています。」との回答でした。

 荒候補からは、「減少した法曹志願者数を回復するための諸活動の成果や、今般の法曹コース・司法試験在学中受験などの法改正の影響も考慮しつつ、他方法律サービスに対する社会の需要等も考慮し、速やかに、司法試験合格者数についての具体的な検証を行うべき」「2年の任期のうちに一定の方向性を出そうと考えてい」る。「具体的な目標数値は、これら検証結果や各弁護士会や関連委員会への意見紹介等、会内での十分な議論を経て民主的なプロセスのもとで決めて行くべき」との回答でした。

 適切なまとめになるかどうか分かりませんが、五候補とも、年間合格者数を現状の1500名から増やすべきとのお考えはないように感じました。その上で、武内候補、及川候補及び川上候補は、直ちに特定の目標を掲げて減らすとの意図があり(具体的な減員数は、候補により違います。)、山岸候補及び荒候補は、もう少し議論して「検証」してから次の人数目標を決めるべきとの意図があるように感じます(但し、両候補のニュアンスには、減員を感じさせるものがあるようにも感じます。明確には判断できませんでしたが、敢えて山岸候補と荒候補の相違を考えるとすれば、「人口減少を考慮」と「社会の需要等を考慮」だとすれば、前者は、減少しかないのに対し、後者は増加があり得るとすると、山岸候補の方が、より司法試験合格者数の維持に消極的と言うことができるかもしれません。)。

(2)法曹養成制度について
 どの部分をピックアップすべきか、悩ましいところもありますが、法科大学院や予備試験に対する評価を含む部分をピックアップしています。

 武内候補は、「法科大学院制度を廃止し、現在の予備試験と新司法試験を結合させた司法試験制度に一本化し、司法修習を2年間とすべき。」と回答し、要するに、明確に「元通り」にすること(旧制度に戻すこと)を意図しています。

 及川候補は、「法科大学院制度と司法試験を切り離し、司法試験を」「誰でも自由に受けられる試験とすることを求め」、「それまでは、予備試験は司法試験への制限のない「公平・平等」なルートとして、大切な意味を持つ」との回答でした。また、「法科大学院制度は、多様性の理念も失いました。ここに至り、もはや法科大学院を強制する合理性は失われた」との評価をされています。

 川上候補は、「司法試験合格者数を年間1000名にしたことを想定した法科大学院の削減方針及び定員の再検討など、抜本的な改革を求め」る旨回答し、予備試験については、「合格者数の縮小予定なし」「多様性の確保を補完する制度となっている。」と評価しています。司法試験については、「選択科目の削減・存置の再検討を含めて司法試験科目及び内容の更なる検討を求める」とのことです。

 荒候補は、今般の制度改革について「時間的経済的負担が軽減されることは、」「若者にとっての動機付けの1つになり得る可能性がある」とした上で、「法科大学院生を手塩に掛けて大事に育てるようなカリキュラムや教育体制を構築してくことが重要」、予備試験については、「現在の運用が制度の本来的趣旨に沿わないとの問題点が指摘されているところであり、」「具体的に検討していく必要がある」との回答でした。

 山岸候補は、今般の制度改革については「積極的に評価すべき」であるが、「多様なバックグラウンドを持つ者を法曹の道に迎え入れるという法科大学院制度の理念は今後も堅持すべきであり、」「未修者教育の充実を併せてはかっていかなければならない」、司法試験実施時期につき、「ギャップタームをなくすという方向性には賛成」だが、法科大学院教育の課程を不当にゆがめることのないよう、実施時期の決定にあたっては慎重な検討が必要」との回答でした。

 適切なまとめになるかどうか分かりませんが、全体的に、武内候補、及川候補及び川上候補は、今回の法科大学院制度改革を否定的に捉え(但し、3人の中でニュアンスが少しずつ異なります。)、法科大学院のプレゼンスを弱める方向に、荒候補及び山岸候補は、今回の法科大学院制度改革を積極的に捉え、ただ、その悪影響を緩和する方向に政策を考えているとまとめることはできるかもしれません。この点についての荒候補と山岸候補の相違は、判然としませんでした。

 

(3)法曹の将来像を開かれた明るいものにするために
 各候補に、「法曹の将来増を開かれた明るいものにするため」の具体的な重要政策2つを紹介して欲しいとお願いしました。

 武内候補は、上記(1)(2)を実現することと、修習給費制の復活・貸与制世代に遡及適用することを、重要政策として回答しました。

 及川候補は、法律扶助制度について、被援助者への給付制を実現すること等の予算増と、弁護士に対するハラスメントやブラック事務所問題の解決を重要政策として回答しました。

 川上候補は、若手の業務拡大や人権擁護活動に関し、日弁連に事前に弁護士倫理違反の有無等について相談できる窓口の設置と、「どの政策も本気」「具体的な政策要綱には、」「いずれも道筋はつける」とし、業務拡大について、「民事司法改革の推進等の外、専門認定制度の検討」等によって「弁護士の収入源に対する発想を見直す」と回答しています。

 荒候補は、「自治体等との連携により、職務に見合った対価を伴う業務を拡充する(権利擁護を業務へ)」と、「法テラスの報酬基準の改正等を実現する」と回答しています。これらによって「弁護士の地位向上にも寄与する」とのことです。

 山岸候補は、「人権、社会正義、法の支配という立憲主義を堅持して、弁護士が使命を果たし、頼りがいのある活動を将来も誇りを持ってできること」と、「民事司法改革と新規業務の拡大により弁護士の業務基盤を確立すること」と回答しています。均衡上、ここでは、詳細に述べませんが、後者の具体策については、回答原文でご確認ください。

 法曹養成に関係する公開質問状としていましたので、候補者の先生方に回答をさせるのが難しかった面もあるかもしれませんが、ここの2つに何を回答するかによって、候補者のそれぞれの色は、ある程度伝わるのではないかと思いました。  

まとめ
 回答を頂いた候補の先生方、改めまして、ありがとうございました。

 司法試験合格者数の在り方に関する回答と、現在の法科大学院制度・予備試験に対する評価に、候補者によって大きな差があることは、良く分かりました。法曹養成制度に関心がある弁護士にとっては、(1)(2)の回答は、会長選挙投票の目安として、有益ではないかと感じました。

 もっとも、法曹人口や司法試験合格者数を増やした方が良いと考える会員は、一体誰に投票すれば良いのかは、ちょっと分からないようにも感じました。

 最後の(3)の回答は、ちょっとバラバラになってしまった感もありますが、各候補者の法曹養成制度に対する考え方に限らないスタンスが垣間見えるものであったように感じました。

 なお、とりまとめをさせて頂いた藤本の私的意見をここで掲載するのは間違っているように思いましたので、別途twitter等で発信したいと思っております。ここまでお読み頂いた皆様、また、公開質問状を一緒に出してくれた仲間、その他支援してくださった方々に感謝申し上げます。

文責 公開質問状作成代表者 藤本一郎(54期大阪)

(最後に)
時間的な制約の中で「まとめ」ました。ここはフェアに記載したつもりですが、もしも不具合があるとのことであれば、フェアな指摘については修正も積極的に検討したいと思いますので、ご指摘いただけますと幸いです(具体的修正案を頂戴できますと幸いです。)。

藤本大学正門