New York州司法試験 受験体験記

はじめに
2006年11月30日
藤 本 一 郎




 私は、基本的にDomesticなLawyerであるが、かねてから希望していた米国留学をなんとか実現し(2005年8月〜2006年5月@UCLA School of Law)、そして2006年7月のNY州Bar Exam(ニューヨーク州司法試験、以下「NY州司法試験」という。)を受験した。本稿の半分は7月27日(木)、受験翌日に記載し、合格判明後の11月30日頃に残余を書いている。フレッシュな受験の感想を残し、数字も交えて日本人から見たNY州司法試験がどのようなもの(レベル)であるかをできる限り的確に示すことが本稿の目的である。もし、今後米国の法科大学院(Law School)留学を検討される方やBar Examを受験される方の参考になるならと思いここに掲載した次第である。


1 NY Bar Examは易しいか?
 この解答は、YesでありNoなのだと思う。

 最初に統計的なものを挙げたい(BOLEより引用)。

年月受験者数(人)合格者数(人)合格率(%)
2006年7月10,4487,25869
2005年2月3,2131,52547
2005年7月10,1756,80967

 なお、同時期のCalifornia州司法試験の合格率は、52%(2006/7)、40%(2005/2), 49%(2005/7)である(ソースはCALBARのWebsite)。

 このように、日本が目指した(とされる)「7割合格」というような状況はもはやCAL BAR(CAに住んでいる人は普通そう言う)では遠い過去の話しであり、NYでも年々合格が難しくなっている(今年は少し易しくなったが)。しかし、他方で、日本の旧司法試験のような極めて低い合格率、という訳ではない。なお、全米における受験者数は、7月の試験でおおよそ5万人である。

 ちなみにNY州司法試験は、外国人の受験比率が極めて高いことでも有名である。

 例えば、2006年7月の受験生のうち、2,355名が外国の法学部・法科大学院(Law School)卒業の資格で受験している(これには、LLM卒業生を含む)。ちなみにその中での合格者数は846名、合格率は35.9%である。外国人でも36%受かるんだから・・・と考えがちだが、EnglandなどCommon Lawの国で法学部・法科大学院を卒業し、自国の司法試験受験資格を有する者は米国のLLMを卒業しなくてもこの試験を受験する資格がある。従って、外国法学部・法科大学院卒業受験生の大半は英国・インドなど、英語圏の受験生であると考えて良い(実際私が受験した会場で真後ろの横に座っていた受験生はロンドン大学卒業であると言っていた)。そんな奴らを含めた36%という数字は、英語を母国語としない受験生の合格率が実際はかなり低いことを物語っている。

 つまり、多くの日本人にとって、たとえ外国人受験生比率が高いとしても、やはり「敵」は英語と英語を喋る受験生なのである。


 次に、是非とも知っておいて頂きたいのは、合格点の上昇である。

 従前、「NY Barに合格しないのは人にあらず」のような風潮があったと思われるが、それは合格点が650点だった時代の話ではないかと思われる。かつてNY州司法試験は1000点満点で650点が合格点であった。それが現在は少しずつ上昇し665点となっている。たった15点なのであるが、NY州司法試験の点数は、最初は絶対値で評価されるものの、最終的には偏差値のような相対評価的に点数が合計されることになっているので、単純に合格率の低下をもたらしたものと思われる。特にいままで「ギリギリ」で受かっていた可能性がある我々にとっては、大問題である。なお、更にもう10点合格点が上昇することになっていたが、2006年2月のExaminerの決定によると、とりあえず当面は665点で暫定固定するようである(但し、見極める、とのこと)。


2 NY州司法試験受験資格
 "Court of Appeals Rule 520.6"(最高裁規則520条6項)に、"Foreign Law School Study"の者でも受験資格があると書いてあるので、それをかいつまむ。なお、変更もあり得るので必ず最新のものをチェックして頂きたい

(1) 米国以外の国(当該外国)における法律の実務を行うための許可に必要な教育的要件を満たすこと(と直訳できるが、日本にあてはめると、司法試験受験資格の教育的要件を満たすこと、と理解されていると思う)

(2) 当該外国における法科大学院(Law School)等における法学教育を、少なくとも3年受けること(なお、本当はもっと細かくて・・・2学期制なら1学期1単位につき14時間の授業とか、そんな感じです)

(3) 当該外国の政府ないし他の公的機関によりその教育期間の出席が認知されること

(4) 当該外国の法体系がコモンローの原則に基づくこと

(5) その法学教育(の水準)が実質的に米国ロースクールによる教育と等しいものであること


 以上の5点を全て満たす場合に受験資格がある。当然日本での法学教育では少なくとも(4)を満たさない。そこで、これら5要件を満たさない場合(但し(5)を満たすことは絶対に必要である)の代替が2通りあるのだが、片方はやはりコモンローの教育を受けたことを原則として、既に弁護士等実務家になっている者の場合の要件であり、これも日本人には一般には無関係であろう。残された最後の代替要件が520.6(b)(1)(ii)である。それは、

(a) 「米国内における承認された法科大学院(Approved Law School)」において、

(b) 少なくとも20単位以上で構成されたプログラムで「専門法学科目(Professional Law Subjects)」20単位以上を取得し、

(c) その中で、少なくとも2科目の「基本的なアメリカ法の科目(Basic Courses in American Law)」を取得し、

(d) 当該プログラムを終えること(学位を取得すること)。

である。

 これら(a)-(d)について若干敷衍すると、(a)については、米国の大学の提携校等やネット授業でも駄目だそうである。テンプルの場合は、後半半年は米国で授業することでギリギリ要件を満たすのかな?、(b)については、"directed research" or "independent study"では駄目だと明確に書いてあるので要注意(私も卒業必要単位は20単位だったが、論文が事実上必須だったので論文以外、かつ念のためゼミ以外で20単位を集めておいた)、(c)については、公式にはNY州司法試験科目に該当する学科から何か2科目ということであるが、これが今ひとつ不明確。私が電話で確認したところでは、直接的な科目ではない著作権法や独禁法でも大丈夫だということであったが、じゃあ何なら駄目なのかは今ひとつ。あと、(d)も重要。LLMである必要はこれっぽっちもない。SJDとか、名前は何でも良いのだ。例えばUC Davisのように、サマースクールを3年出れば学位が出るところがあるが、これでも受験資格を満たす。しかし単位があっても大学が卒業に論文を課している場合は、論文を出していない等の関係で学位がなければ駄目。

 誤解してはいけないのは、この(a)-(d)は、あくまで全体として上記5要件を補完するものとして考えられている。従って、この(a)-(d)を満たしても、日本における法学教育が足らなければ、全体として5要件に相当するものを満たしていないとして、受験資格が却下されることがあり得る。弁護士だが法学部卒ではない者は大抵駄目だと聞く。今年は、慶応大学法学部政治学科卒業の受験生が、日本の弁護士を含め一旦は全員受験資格なしとされた(その決定に抗告して受験資格が認められたという話しも聞くが、詳細は直接聞いていないので分からない)。東京大学法学部の卒業生は、法学部での授業が2年しかないので、大抵は資格について事前に確認する手続がある(但し受験の6ヶ月前までにやらなければいけない)ので、それを行うことが多いと聞く。

 そう、これらの要件を証明する文書であるが、これも受験案内に書いてあるが、

@当該外国の法学部・法科大学院での成績証明書(英語が正本とできる時は英語版だけで良い)、

A同卒業証明書(特に要件との関係で学位・卒業日と出席期間の記載が重要である)、

B米国の法科大学院における成績証明書、

C同卒業証明書(学位の記載と、卒業日の記載が確認される・・・UCLA, School of Lawでは今年全受験生の学位と卒業日の記載がなかったという理由で追完を要求された・・・大学の担当者によると、昨年までは記載のない成績証明書だけで十分だったらしい)、

Dもしも、外国の成績証明書が明確に授業の時間数などを記載していない場合は、当該学校からの補足説明書?(下記に私が京都大学から取得した証明書を添付する)。

なお、これらの書類は、願書に添付できない場合は、試験日の属する月の1日までに到達するように追完すれば良い(願書に添付する他の書面・・・筆跡証明、公証人による証明(公証人は大学内に大抵います)、250ドルのマネーオーダー等は、同時に出す必要があったと思います)。

 このDであるが、2006年2月のNY州司法試験受験生から特に要求されるようになった(それ以前の受験案内にはDの記載はない)。私の知る限り、このような証明書の発行はNY州司法試験委員会(BOLE)が各国の主要法学部・法科大学院に既に要請しているため、台湾や韓国の主要大学(旧帝大ないし同レベルの大学)の卒業生は同様のフォームの書面を貰っていたが、何故か東京大学は出していないと聞く。このDは、特に上述の事前の資格審査をしないで出願する受験生にとっては重要だと思われる。なお、今年はBOLEの担当者によっては全然この点をチェックしていなかったが、徐々に徹底していく可能性がある(米国で暮らせば分かるが、米国では、銀行でも保険でも、ルールが変わっても担当者が変わらなければ、注意されるまでは従前のままになりがちである・・・)。なお、京都大学法学部の場合、ちゃんとこの補足説明書?をくれといえば、文面は大学が上記のように準備してくれます。

 さて、ここまで述べたら明確だと思うが、今後の日本人受験生にとって、実は重大な障害が日本の司法改革である。今年から、既に日本の法学部卒業者では、司法試験を受けることが制限されるようになった。もう旧司法試験しか受けられない。そして旧司法試験は2010年には終わることになっている。ということは、遅くとも2010年には、法学部(法律学科)卒であっても、米国の法科大学院を卒業してもNY州司法試験は受けられなくなるのではないかと思われる。

 更に、司法試験合格者の激増で、留学志望者も激増していると聞く。もう1つ言えば、お隣韓国も司法改革で、また中国も経済成長により留学志望者が激増中である。日本の世界的地位の低下は著しく、これも受け入れ側のdiversityの構成のやり方に影響を与えつつある。いままで日本人といえば上位校に行って当然、という雰囲気があったが、今後はそうはいかなくなるだろう。学費の上昇も痛い問題だ(UCLA LLMの場合、私のときは35000ドルだった学費が翌年は37750ドルと上がった。どこもこんなペースで学費上昇中である)。

 

3 NY州司法試験受験準備
 これは私の場合、正直よく分からなかった。

 Californiaにいる私の場合、周囲のJDはみなCal Barを受けるし、LLMも日本人私いれて2人しかいなくて、そのもう1人は受験しないので、ちゃんと相談できる相手がいなかったというのが正直なところ。受験資格とかも、他国の人たちは私より楽観的であんまり心配していなかったし・・・。

 ただ言えるのは、BarBriに従う以外に余り選択肢はないということである。

(右の写真はBarBriのテキスト類。色はどうもいつも青というワケではなさそうである)

 BarBriの授業スタイルは好き嫌いあるだろうが、それなりに役に立つ。だいたい、こういうスタイルでないと、2〜3日で1科目を「学び終える」のは難しい。また、BarBri前に準備といっても、実際は大学の授業があって、これも私には不可能であった(もし大学での論文がなければ可能だったかもしれないが)。せいぜい、MPRE(倫理試験・・・弁護士登録には必要)を受けて点数を取っておく、ってこと位しか。

 ただ、問題は、BarBriに従うと、結局米国人等に対するアドバンテージはほとんど何もない、ということである。彼らが「復習」を始めるのと同じ時期に「初めて触れる」訳である。特にNYC以外で受講する場合、ビデオ講座になるが、これはNYCより1週間遅れてスタートし、1週間遅れて終わる。授業が終わるのは試験2週間前である。移動とかもあるから、実質10日。実質10日でMemorizeしろとBarBriは言うが、それはもう無理。今考えても非常に適当なまま本番に突入してしまった。

 じゃあ、何か少しやっておけば良かったか、と言われると、例えばサマースクール等で触る契約法や憲法等の知識は余り生きてこない。敢えて言えば、「英語慣れ」をもっとしておけば良かった。

 ノートについては、世の中に出回っている「ミシガンノート」等々のノート類を使うと良い。これらのノート類は大抵がBarBriの授業におおむね準拠して作成されているので、BarBriの講師が変わらなければ、授業もラクになるだろう。ただ、これらのノートには包摂されない問題も出題されている。例えば、2006年7月の200問中2問で、いわゆるPurchase money mortgageについて、ノートでは包摂されていない知識(2つの当該不動産取引に関する債権(買主からの残代金債権と、銀行からの不動産購入代金借入債権)のうち、特約がない場合、いずれが担保権のpriorityを得るか(いずれもpurchase money mortgageの要件を満たすので、既存の根抵当権などには優先するが、両者間はどうなのか?))を知らなければ解けない問題が出た(終わった後で調べたが私は間違った)。ただ、それを解けなくても受かっているので、できる問題を確実にやることが重要かもしれない。

 試験、かなり時間不足になる。本番でも私はMBEと呼ばれる短答式の問題、200問で6時間なので、1問1分48秒で解かねばならない。しかし現実の試験で私は、200問中、12問くらいは何も見ずに適当に[C]をマークしてしまっている(なお、トイレに1回行っている)。試験で数点の差こそ合否を分けるところであり、この12問は私の致命傷になるかもしれなかった。速く解くこと、これは、初期には全く意識できなかったが、比較的早い時期から意識して取り組むべきである(時間を計りながら解こう。最初は10問18分が無理でも、10問20分以内には解くことから始めても良いと思う)。

 Real PropertyのMBEは、他の科目と比べて時間がかかる問題が多い。そこで、Real Propertyの問題は最初から飛ばす、といっている奴もいた。ただ、MBEでは、日本の司法試験と異なり、どの科目がどこに配置されているか、全くのランダムである。そして最初の1〜2行はReal Propertyっぽくても実は憲法だったり不法行為法だったりすることもある。それと、確かにReal Propertyの問題は時間がかかるのだが、個人的には、ちゃんと読み解けば正答率がかなり高い科目であったので、そういう戦術は採らなかった。まあこの辺は人によるだろう。

 解くべき問題集であるが、MBE(全州択一、本番では200問、配点40%)については、バーブリから配布された過去問集(6科目の境なく混合)と3レベルに分かれた問題集「Practice Questions」(科目別)がメインであった。私の場合は、後者の初級と中級をまず解き、それから他に移った。なお、PMBR社の模擬試験に申し込むと送られてくる「赤本」と「青本」が別途あり、こちらの方が少し難しく、また意地が悪いので、織り交ぜてやった。しかし最初の最初は、易しめのバーブリの問題集で基礎を固めるべきだろう。

(右の写真がPMBRの「赤本」と「青本」。このうち「赤本」の問題の一部は、同社の実施する模擬試験に出てしまうことはちょっと残念である。日本の予備校がいかに「洗練」されているかを感じる瞬間である)

 米国のロースクールに行けば必ず1度は聞く宣伝として「PMBRを受けている奴らは合格率が非常に高い」というのがある。これは真実だろう。ただ、何故真実かといえば、BarBriの問題集に加えて、PMBRの問題集まで手をつけられるだけの勉強(時間的、問題数的に)に到達したからそうなるだけではないだろうか。PMBR「だけ」で合格したという奴は知らない。

 次にEssay(本番では5問、配点40%)については、BarBri配布の黄色い本と、あとBarBriのマリノの講座で配布されたものしかやらなかった。しかし全部やれたワケではない。合計で60問強しか取り組めていない。

 なお、Essay出題範囲の予想屋さんであるマリノの授業はBarBriでもオプションとなっており、彼の授業をわざわざお金と時間をかけて取るべきか、迷うところであるが、結論からいえば、確かに彼の予想はあたるけど、取らなくても害はないということである。私は取ったのだが、結局風邪を引いてしまったせいで満足に予想を聞けていない。それに予想の範囲が抽象的なので、あたるにはあたるけど、具体的に何をすればいいかまでわかるもんじゃない。彼の授業で参考になったことと言えば、出題される6問の科目イメージ(1問がContracts/Business Law、1問がTorts/CPLR、1問がCriminal Law/Procedure、1問がReal Property/Domestic Relationship、1問がWill/Trustというイメージ)、わからんことがあってもルールをでっちあげればいいという解法あたりかなあ。これは、その授業に出なくてもなんとなく分かるなら大丈夫だと思う。

 NY州独自の択一試験(本番では50問、配点10%)については、上記黄色本に附属している問題と、別途MicroMashと呼ばれる商品(ネット通販で「間違って」買った)の問題をやった。後者は、一般には不要のものだが、NY州独自試験の問題量はそれなりにあるので、バーブリだと科目によっては4問くらいしか択一問題がなくて全く演習にならないことがあったので、この州独自試験に限っては役に立った。その成果か、州独自試験については実は全問とにかく解くことだけはできた。

 最後にMPT(意見書などを作成する試験。実務試験とでも言おうか。本番では1問、配点10%)については、バーブリ配布の問題集のうち、7問くらいしか解いていない。これは、今年の試験がたまたま易しかったから、あと、英語と日本語の違いがあるとはいえ、意見書の類は実務で作成するのに慣れているから私の場合合否に影響しなかったが、自宅勉強では、いつも目標である1時間30分以内に解くことができず、苦労したので、もっと演習すべきだった。

4 2ヶ月強の間に、何時間/何問勉強すれば良いのか?
 これも全く分からなかったが、私が記録をつけているので、参考にして欲しい。これはBarBri出席時間を含まない。また、不真面目だったら実成果に合わせて「減時間」して評価している。まあ、仕事でタイムチャージをつけるときと同じやり方である。

 勉強時間合計:390時間
 解いた択一(除、NY州独自の州法試験部分):2112問
 解いた択一(NY州独自試験部分):約200問(直前期に解いているのでちょっと不明)
 解いたEssay:約60問
 解いたMPT:約7問

・・・ご覧のように、日本の司法試験の時とは大違いの不十分な勉強量である。実質8週間程度だから、予備校の時間を除いて1週間50時間程度しか勉強していない。取りあえず私の勉強量や解いた問題数が、合格の最低ラインあたりではないだろうか、自分が何点で合格したのかが分からない(MBEのスコアだけは通知される)ので何とも言えないが。

 そうそう、本番のMBEの点数をここで公表するのは躊躇するが、途中で受けているMBEの模擬試験(BarBri実施およびPMBR実施)は書いておこうかな。

 BarBri:101点(6月末実施、平均点以下)
 PMBR:102点(7月中旬実施、これは平均点ちょい上らしい)
 いずれも酷い点数であるが、本番は大分マシになる。なんせ0から2ヶ月で受験するワケやからねえ。ちなみに、BarBri模試では70問くらい、PMBRでも36問は解くことができていない(残余は適当にマーク。要するに時間不足)。そんな惨状からすれば、よく本番で188問も解くことができたものだと思う。

5 Albanyで注意すべきこと
 NY cityに住んでいる人以外は、基本的にNY州司法試験を州都であるAlbanyで受験することになると思うのだが、ここは州都とはいえ田舎町なので、受験に際しては次の点に注意すべきだと思う。

(1)ホテルの予約

 7月の試験会場は特に分散して実施される。これらがどこになるかは、事前にBOLEのWebsiteで発表されている。そして、Albanyは小さな街なので、試験当日はタクシーが大混雑・大ぼったくりになる。できれば、会場まで徒歩可能なホテルないし実際に会場と指定されているホテルを予約するべきである。私の場合は、会場であったあるホテルの1つ(Marriott Hotel)をだいぶ前に予約し宿泊した。従って、試験日も自分のホテルの部屋で昼食を取ることができた。これは、試験会場に持ち込める荷物が非常に制約されていることともあわせて(例えば「筆箱」「透明じゃないカバン」は持ち込めない)考えれば、とても重要なことだと思う。他方ホテル側もそのような授業を見込んで、ふっかけた値段を言ってくるが(大きな会場の1つ、Crowne Plazaは1泊210ドルくらいで4日連泊以上しか認めなかった気が)、仕方ない。なお、数ヶ月前から予約していなくても、実際どこで試験を受けられるかは、試験前2週間くらいの受験票の発表(発送およびネット発表)で初めて分かるので、この直後にキャンセルで少し空きが出るので、この時が最後の予約のチャンスである。但しキャンセル料に注意。

(2)Albanyまでの交通手段

 実際に私は、試験前々日にLAX⇒Chicago⇒Albanyと移動する筈が、最初の飛行機が機体トラブルでキャンセルとなり移動できなかった。こっちではキャンセル待ちはすごい列。結局直接JFKに飛んだあとでアムトラックで深夜1時にAlbanyに着いたものである。友人の中には、他にも飛行機のトラブルで深夜4時に着いたという奴もいた。従って、移動手段にはトラブルがあるという前提で備えた方が良い。特に西海岸の人は注意が必要である。

 なお、Albanyのアムトラックの駅の前には、乗り合いタクシーしかいなかった。これは価格表が車内に掲載されているのに、ぼったくろうとするので、勇気があれば文句を言ってみて欲しい。深夜だったこと、および、信号で20ドル札を必死に数えている姿を見て、私は文句を言う気力もなくなったが。

(3)時差対策

 西海岸の人の場合、3時間の時差をどう考えるか、問題となる。

 私の場合、早くから午前4時起きを実践しようとしたが、失敗して変なことになってしまった。睡眠薬を使って早く寝ることなんかも努めたが、あれで寝ると私の場合かえって翌朝疲れが残ってしまい駄目だった。

 早起きは大事だが、6時より前に起きて勉強するのが無理なら、6時でも良いじゃないか、という感じで、3時間全部を修正しようとせず、1〜2時間を修正できれば、それで十分という気がする。大事なのは、気持ちよく勉強することだろう。ただ、遅寝遅起きの人は修正する必要があろう。

(4)食事について

 Albanyは州都とはいえ田舎なので、現地での食事は困ったものである。

 私の場合は、外食やホテルでの食事もしたが、何があっても良いように、日系スーパーで予め「カロリーメイト」「ウィダーインゼリー」の類のものを買い込んでおいた。また模擬試験では、敢えておいしくないこいつらを持ち込んで当日に備えて食べてみた。当日だけ突然こういう奴らを食べると、吐いてしまいかねないと思ったからだ。まあ、食事の調整は全体としてうまく行った方だろう。

(5)持参する本などについて

 どうせ沢山は読めない。また、飛行機に乗る際に荷物を預けるとどっかに行ってしまうかもしれない。機内持ち込みができる範囲にまとめることに努めた。終わった後ちょっと遊ぶことも考えれば、それで正解だったと思う。

(6)UC Davis

 UC Davisのサマースクール(上述した学位がある奴じゃなくて、pre-LLMのサマー)に参加すれば、全米各地に散る人たちと仲良くなれる。そこで出会った人とAlbanyで再開するというのは、この上ない楽しみであった。試験後、私の泊まった某ホテルの宿泊者だけでも、少なくとも4名がDavisでの友だった。サマースクールに参加することの是非は色々議論の余地があると思うし、勉強としてはたいして役にたたなかったのだが、ここで再開することや情報交換のことを考えれば、もしも余り沢山日本人がいないロースクールのLLMに行くのであれば、Davisのサマーに行ったこと自体が、Albany対策の1つだった、とも言えなくはない気がする。

6 合否の傾向と感想
最後に、これは全くの周囲を見ていての主観であるから、聞き流して欲しいが、実際に何十人という人の合格・不合格を聞いていて思うことを少し書きたい。

  • NY州司法試験に関して受かりたいなら、NY州のLaw Schoolが良いようだ(一番真剣に勉強している)。でも情報不足となる他州でも、ちゃんとやれば合格する。
  • 英語ができる・できないは、ちゃんと勉強すれば余り関係ないようだ。周囲の英語ができる中国人が軒並み落ちていたり、同じく英語ができない韓国人が軒並み受かっていたりしたので。
  • やっぱり日本の弁護士の合格率は高い気がする。たぶん7〜8割くらい。憲法や証拠法が少し似ている部分があるとか、MPTで少し有利とか、理由は色々あるかもしれないが、たぶん第1の理由は、過酷な日本の司法試験での勉強に慣れているので、2ヶ月の集中勉強をそれほど苦とはしないから、ではないだろうか。
  • 別に「渉外弁護士」だから合格率が高い、ということはない気がする。
  • 一部Law Schoolは卒業が6月中旬にずれ込むが、その影響は大きい気がした。Law School入学前にBar受けるつもりなら、卒業時期はチェックすべきだろう。
  • 外国人(アジア人)に限れば、男性の方が女性より合格率が高い気がする。短期詰め込み型の学習への適正の関係か?
  •  まあ、この資格そのものは、実益が少ない名誉職のようなものだが、勉強そのものは、1年のLLMとしてのLaw Schoolの勉強ではできない「基礎」部分なので、正直楽しかった。楽しんで受験すればきっといい結果が出るのではないか。その後の米国の法律事務所での研修でも、基礎的なUCCの知識などは役に立っているし、全く生きてこないワケではないから。

    Contact | Privacy Policy (c) 1996-2007 Copyright Fujimoto University (FUJIMOTO, Ichiro). 藤本大学正門